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聞香記−9 清少納言と・・・・・
 
seicho撮

来週は、清少納言の『枕草子』を主題にして香席を催します。

証詞は、有名な第一段。
「春は曙・・・・・」と語る清少納言の心を香りに聞こうと思います。


春は曙。やうやう白くなりゆく、山ぎはすこし明りて、
紫だちたる雲の細くたなびきたる。
夏は夜。月の頃はさらなり。闇もなほ、蛍の多く飛びちがひたる。また、たゞ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るも、をかし。
秋は夕暮。夕日のさして、山の端いと近うなりたるに、鳥の寝所へ行(く)とて、三四(みつよつ)、二三(ふたつみ)つなど、飛び急ぐさへ、あはれなり。まいて雁などのつらねたるが、いとちひさく見ゆるは、いとをかし。日入りはてゝ、風の音、虫の音など、はた、言ふべきにあらず。
はつとめて。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火など急ぎおこして、炭持てわたるも、いとつきづきし。昼になりてぬるくゆるびもてばいけば、火桶の火も白き灰がちになりて、わろし。
                       『枕草子』清少納言
   参考資料:『枕草子』全訳注 上坂信男 神作光一 講談社学術文庫



 
『日本の古典を見る 枕草子』世界文化社より 表紙

平安時代の香りへの思いはどのようなものでしょう。

『源氏物語』(紫式部)若紫の巻に、

“そらだきもの心にくくかおりいで”  とあります。

『枕草子』では、

「こころときめきするもの」として、

“よきたきものたきてひとりふしたる”




当時の宮廷では人々は大いに香りを楽しんでいたようですね。

現代では、『香りの手帳』(香老舗松栄堂広報室編)の中で作家・藤本義一氏は次のように述べられています。


「香道を復活させたなら、絶対にボケ封じになると思う。(略)

鼻から直結する脳に香りを送り込んだなら、

脳細胞百四十億は活発に動きはじめ、集中力と同時に、興奮系物質のドーパミン等が脳を(うるお)すようになるのではないだろうか。(略)

香りの文化をわれわれはどうも江戸時代よりも軽視しているようだ。(略)

香りが人間の深い生理の部分に関与しているということを考えてもいいのではないか。そうすれば、文化は百分の五。 五パーセントぐらい前進する筈だ」と。


そうですね。

ところで、清少納言という人はどのような人だったのでしょう。
彼女の鋭い感性と美意識、そして機知に富む文章力はどのようにしてうまれたのでしょうか。

清少納言の祖父は歌の名人・清原元輔です。彼女はその晩年の子。
曽祖父はこれまた優れた歌人・清原深養父(ふかやぶ)です。
では二人の歌は、

まず父・元輔の歌は次のようなものがあります。
代作歌です。
人から頼まれ代わりに詠った恋の歌。
歌のうまい人には、よくあることだったのですね。

『和歌の解釈と観賞事典』 井上宗雄・武川忠一編より歌をじっくり味わってみましょう。 

  
「心かはり侍りける女に、人に代わりて」
 
 
契りきな かたみに袖を 絞りつつ
  末の松山 浪越えさじとは 
        
(後拾遺集・巻十四・恋四・七七〇)

(二人はあの時固く誓いあったのでしたよね、互いに涙に濡れる袖を幾度も絞りながら、あの末の松山を波は決して越えることがないのだ、私たちの仲も決して・・・・・と。   歌の訳及び解釈は『和歌の解釈と観賞事典』 井上宗雄・武川忠一編より)

曽祖父・清原深養父(ふかやぶ)の歌は、

 夏の夜は まだよひながら 明けぬるを
   雲のいづくに 月やどるらむ
        
(古今集・巻三・夏歌・一六六) 

短い夏の夜はまだ宵だと思っているうちに明けてしまったが、これでは月は西の山まで行きつけなかったであろうに、いったい今、雲のどのあたりに宿っているであろうか。)


seicho撮

明けやすい夏の短夜を思い切った誇張をもって詠み、それに月が配されて、夏の夜の気分を
強く出している歌なのです。機知に富んだ歌心。その裏にはしっとりとした情感。夏の夜の月への思いと愛惜。                  (歌の訳及び解釈は『和歌の解釈と観賞事典』 井上宗雄・武川忠一編より)


深養父という名が印象深く、以前から好きな人でした。
こうして歌をゆっくり味わっていると、お父さんやひいじいさん、そして、なにやら清少納言の顔まで想像されてくるのはなんとも楽しいものですね。

さて、来週の香席では香りはどのようなことを語りかけてくれるでしょうか。楽しみです。 


| 香りの冒険者 | 11:07 | comments(0) | trackbacks(0) |
聞香記−8  高槻と京都

seicho撮

先月は、関西の高槻東ロータリークラブにて、
講和と香席を担当してきました。

お話は「香りと経営」。
香りのもつ力が少しでも経営力に役立てばという思いでお話ししてきました。

香席には二十数名の方が参加され、
経営者、僧侶、お茶の先生など多彩な顔ぶれです。
香りのおかげで和気あいあいの集いになりました。

前日は京都に宿泊。
東山を散策し、哲学の道から安楽寺、法然院、慈照寺銀閣寺等を訪ねました。



足利義政の声が聞こえてきそうです。

 わが庵は月待山のふもとにて
  かたむく月のかげをしぞ思ふ

 くやしくぞ過ぎしうき世を今日ぞ思ふ
  心くまなき月をながめて
                   義政


seicho撮  月と銀沙灘

義政の生きたのは室町時代の乱世。

南北朝から応仁・文明の乱にいたるまで、この京も、「時の権力者によって奪われ、奪いかえされる戦いの日々」に傷だらけになっていたのです。
今では考えられないことですが、その荒れ果てたなかから、今日の日本を代表する
諸芸能が生まれました。

私たちの愛する 能も花も茶も、そして香も、
「ひとつの根から
同時に咲いた花」といわれているのです。




哲学の道沿いの清い小川の流れ。
鯉でしょうか、泳いでいます。




鳥も気持ちよさそう。
静かな気配。
心も落ち着きます。





しずかです。
漂うのは木々の香り。


| 香りの冒険者 | 18:23 | comments(0) | trackbacks(0) |
聞香記ー7 歌心
 
seicho

前回の「名香合」はとても楽しかったとお手紙をいただきました。
支持を表明し判詞を考え、また香名を付ける楽しさ。

羐代さんは二番に出香。
「無心」と名づけた香は、「平家物語」の那須与一が鏑矢を放つ直前の思いから付けられたとのことです。

その思いを歌に託すと、

  北風に はためく扇 南無八幡
   しずまる心 放つ鏑矢 
                 
羐代
                   

  後のなき 思いきわまる そのときに
   ものみな止まり 弓ひき絞る
                 
羐代

  この矢はづさせ給ふな
   
     
那須与一・扇の的の段
   

香りの記憶は一気に元暦二年(1185)二月の屋島に飛んでいく
それは無心の香


seicho

| 香りの冒険者 | 23:23 | comments(0) | trackbacks(0) |
聞香記ー6

 京都・東山にて

5月の稽古は、名香合の真似事を楽しみました。
左方、右方に分かれ、
一番づつ香りを聞き比べていきます。

香の名前も重要な要素となります。
共通のベースに「平家物語」を選び、
物語に登場する言葉から香の名をつけました。
皆さん楽しそうに香に名をつけておられました。

香ってきました。
それぞれ優劣をつけがたく・・・・・。


三番香りに聞いて、「持ち」(引き分け)は二番あって、
一番だけが意見が分かれました。

香りは、やさしく、あまく、時には苦く、激しく、つよく、香り立ちました。

後日、巴さんから歌が届きました。
平家物語、扇の的の段、那須与一の心を思っての歌でした。

  南無八幡 大安楽を 祈念して
   春嵐の海 ひびく鏑矢

歌心とはすばらしいものです。
自分の思いを五七五七七の言葉に託して伝えていきます。
与一の悲愴な気持ちを香りに聞いてみようとするとき、
おもわず祈りの言葉がでて、
源平の屋島の戦が目の前に見えてきます。


南無八幡大菩薩、
わが国の神明(しんめい)、日光権現・宇都宮、
那須ゆぜん大明神、
願はくばあの扇のま
なか射させたばせ給へ。
これを射そんずる物ならば、

 弓きりをり自害して、
人に二たび(おもて)をむかふべからず。

    いま一度本国へむかへんとおぼしめさば、
    この矢はづさせ給ふな。
                     「平家物語」より


香席での香りと言葉は、
脳を活性化し、ひとつの精神のドラマを生み出してくれるようです。

このことはまた書いてみましょう。



seicho
| 香りの冒険者 | 20:56 | comments(0) | trackbacks(0) |
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