花はさかりに、月はくまなきをのみ見るものかは。雨にむかひて月を恋ひ、たれこめて春の行方知らぬも、なほあはれに情(なさけ)ふかし。
(兼好法師『徒然草』第百三十七段・部分)
今月の稽古は、「つれづれなる日々」。
香りに兼好の心を聞く楽しいひととき。
月と言えば満月美、花と言えば満開美を謳(うた)うのが風潮であり長い伝統であった時代に、「花はさかりに、月はくまなきをのみ見るものかは」と、兼好は強調し、「もうじき咲くであろう桜、散り萎れた花、欠けた月、雨雲に閉ざされた月」も、また、それなりに趣の深いものだと言ったのです。
(渡辺誠一著『侘びの世界』より)
兼好については、「四季おりおり」、をどうぞご覧ください。
12月の稽古は、土曜日の爽やかな朝。
兼好の話を一時間ほど。
聞香炉から香りが立ち上ると、とても幸せな香りがしました。
心は香りにつつまれ自由自在に!
伽羅や羅国には、都の賑わいや、永久の月が目の前に現れてきます。
真那賀や佐曽羅、寸門多羅には、咲く花や散りゆく花、雨雲。
この日は香りにさまざまなことを感じられる日でした。
巴さんは多くのイメージが心にあふれ出たようです。
伽羅の香に、
薄日さし友禅菊の紫に
咲き乱れしもあはれなり
羅国の香に、
闇夜に聴く琵琶の音月高し
真那賀の香に、
雪間の草の春の土手
佐曽羅の香に
夜桜や
おしろいの香の
しゃんしゃんとし娘過ぎ
寸門多羅の香に
雨にむかいて月を恋ひ
たれこめて
香らずもよし春の宵
さくらんぼうの
実熟して
小鳥歌い
羑代さんは、
月を恋ひ 想いに満ちる 草堂を
照らす光の 冴え渡りなむ
淑子さんは
さまざまに 心乱れし 時過ぎて
今を楽しむ 想いのままに
敦子さんは
庭にくる 鳥の心の 眼にとらえ
閑かに過ごすを 楽しみとす
香りは私たちをつつみこみ、
時は静かに過ぎてゆきました。