鬼のすむ 心のちまた 雨ふかし
良子
聞香・稽古「羅生門」、香りに聞く良子さんの心です。
ある日の暮れ方のことである。
一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた。
芥川龍之介「羅生門」の書き出しです。
さびれた羅生門に主人から暇を出された若者が雨に降られ、
行く所もなく、途方にくれている。
死肉をついばみにくる鴉は、
今日は時刻が遅いのか一羽も見えない。
素材は古典、しかし、そこに描かれるのは近代人の心理。
失職して行くところもなく途方にくれる身分の低い若者が、
羅生門の楼上で出会うのは、
生活のために死人の髪の毛を抜いて鬘する老婆。
“せねば、飢死にをするぢゃて”
さて、どうすればいいでしょう。
小説のラストは、羅生門の下の闇の中、
黒洞々たる夜があるばかりである。
下人の行方は、誰も知らない。
香りに聞く証詞は、
下人の行方は、誰も知らない。
香りに聞いて、敦子さんは、
春の雨、そして氷雨と題して
闇の夜と 心の闇に のみこまれ
ゆくへさだめぬ 下人のこころ
淑子さんは、
われは下人 羅生門にて 知りしこと
胸にたたんで 今日を生きる
『帝国文学』の最初に発表された「羅生門」では、
最期のところは、次の様に書かれていました。
下人は、既に、雨を冒して、京都の町へ強盗を働きに急ぎつゝあった。