日本文化藝術財団「四季おりおり」は“冬へ”です。ご覧になってください。
四季おりおり
今日の午後は麹町で稽古でした。
主題は、聞香・アルチュール・ランボー。
夜は「TOKYO FM atre ライフソムリエ」。
こちらもどうぞ。
【TOKYO FM atre ライフソムリエ 村田睦】
お話したものに補足して、以前に雑誌に書いた原稿をここにも載せておきましょう。
雑誌『自分時間』掲載:「香りに出会う、人に出会う、和の心」
香道という言葉は知っているけれども、一体どういうものなのか。体験したいと思うが、その機会もないし、それになにか格式張っているようで少々気後れする。
しかし、香しい男にもなってみたい。
そういった人のための“深香如意(しんこうにょい)”。深く香りに聞いて意のままに生きよう。そう思えばもうあなたは“香りの冒険者”である。
「どうもあなたはむいている」との一言で香炉を持つようになった。
香しい男にでもなりたいと思ったのかもしれない。最初は右も左もわからぬ道、かえってそのことがよかったみたいだ。すべてが新鮮。
ある朝、目覚めて天上を見つめ考えた。なぜ鼻は顔の真ん中にあるのか。耳の位置にあってもいいし、肩にあってもいいんじゃないか。
考えること数日、判明した。嗅覚は五感のアンテナなのだ。
身体の内と外は呼吸でつながっている。危険なものが入ってくるやいなや匂いでわかる。
すぐさま、五感をたたき起こし、危険から回避する。
また、安全でえもいわれぬ良き香りは五感を喜ばせ、脳の細胞を活性化する。
それも、ゼロ・コンマ2、3秒の速さだという。
最近なにか憂鬱だ。世の中暗いなあ、と思うようになったら、要チエックだ。
毎日香りで自分の健康度を点検する人がいる。よく香りが判別できたら健康、よく判別できなかったらどこか弱っている。
香道ではこの香りを判断することを“香りに聞く”という。ここが重要だ。嗅ぐのではなく“聞く”。そして、「を」ではなく「に」だ。それを「聞香(もんこう)」という。
大いなる自然の恵みである香木の香りに融けあうには、「に」の精神が大切なのだ。
初心者の頃、香の先輩に尋ねた。『聞香』というのは、と。「私も若い頃、お尋ねしたの、先代の家元に」。そのとき、目は潤みはじめていた。「おやさしかったわ」、遠いところを見つめるように「そう、香りに聞くんだよ、とおっしゃったの」。
その時、なにかが胸の奥ではじけた。言葉では伝えきれないものがある。それがそのことだ。先輩の声の抑揚、表情から、トータルに伝わってくるもの、泪とともに。
直感した。大切なのは受け入れるという心だ、すべてを。自我を捨て無垢の心で、“香りに聞いていく”。そうしなければ、大切なものは聞こえてこないのだ。
この心を実践されている人がおられた。8年ほど前、香の会を開催していたときのこと、「聞香の心は私たちの理念と同じに思えます。それは“心耳を澄ます”ということです。
見えないものを観る、聞こえないものを聴く。その気持ちで全職員が心をあわせ、医療に携わっています。目に見えない患者様の心の痛みや辛さ、それを感じとる心がいかに大切かを日々話し合っているのです」
情熱家は香りの冒険者、果敢に行動する。副理事長を務める病院に香道室を設けた。車椅子もそのまま入れるようになっている。
併設の介護老人保健施設で「香の会」が開催されるようになった。
香炉が廻りはじめると、世話をしておられる人が飛んできた。「感動です。この何年来お世話をさせて頂いているお年寄りの方が何かを言おうとなされ、声を出し香炉を持とうとされたんですよ。こんなことははじめてです」と涙ぐんで話された。
そばで、すごく元気で陽気な声がした。「お母ちゃんのお乳の匂いがする~」。一気に何十年かを飛び越えて懐かしい母の懐に抱かれた方もおられたのだ。本当にニコニコして、こちらも笑顔を返した。
私は今、仲間たちと物語る香り、“聞香・心の旅”を楽しんでいる。「源氏物語」や「平家物語」、「西行」、「芭蕉」などを香りに聞く。「星の王子さま」もだ。
男性陣に圧倒的に人気なのは「信長・夢幻香」だ。しかし、「源氏物語」もまんざらではない。「もっと早く知っていたらなあ、源氏を」「どうしてですか?」「いやぁ、結婚生活がもっとうまくいっていただろうになぁ」。
先人たちは多くのことを残してくれた。豊かな遺産だ。どう生かすかは、私たち次第。真実を心に持ち、よく生きよう。
かの名探偵シャーロック・ホームズ曰く「優秀な探偵には、少なくとも75種の香りの知識が必要である」と。彼は香りの知識で犯人を見い出したが、私たちは香りによって何を見い出すのでしょうか。
今夜は、一緒に香に親しんでいる仲間に感謝です。
そして、「TOKYO FM atre ライフソムリエ」の皆様、ありがとうございました。