花見の季節がやって来ました。
春のはじめのうた 壬生忠岑(みぶのただみね・十世紀の歌人)
春きぬと人はいへども 鶯の鳴かぬかぎりは あらじとぞ思ふ
古今和歌集 春歌上
「中世以降の歌学により磨かれた美意識が、組香の素材である香木の美を鑑賞し評価する骨格を造りあげている点に注目したい。
しかざれば沈香木七種のうち羅国(らこく)や真那賀(まなか)といった、あるかなきかのかそけき美に心を留めることはありえなかったろう。
このような香木の評価はわが国独特のものである」と『香道入門・香りと香道の歴史:神保博行箸』(淡交社)にありますが全く同感です。
昨日の稽古でも香木・羅国の香味“あるかなきかのかそけき美”に心打たれ、主題の情とともに感動していた次第です。
香道で用いられる香木は、伽羅(きゃら)、羅国(らこく)、真南蛮(まなばん)、真那賀(まなか)、佐曽羅(さそら)、寸門多羅(すもたら)の六種類とされ、そして、新伽羅を加えると七つとなります。
六国五味(りっこくごみ)という言葉は香木の種類を判定するためにつかわれます。
また、香りの性格を味覚に置き換え、甘い、酸っぱい、辛い、苦い、しおからい、の五味に分類したのです。
そして、文学的主題と香りが結び合い、「表現される聞香=香りに聴く世界」が出現したのです。
室町時代、東山文化が生み出した幽玄なる世界。
それは、「暗示」、「不均整」、「簡素」、「果敢なさ」等の美として表現されてゆくのです。(ドナルド・キーン箸『足利義政・日本美の発見』)
能はもとより、茶の湯、立花、水墨画、建築、造園、そして香りの世界にもその美意識は展開されます。
この「主題を導き、香りの美にうたれる心のもと」はどこにあるのでしょう。
「歌の心」のもとをたぐれば、『古今和歌集』の仮名序にゆきつくと思われます。
僕も大好きなのです、その仮名序を紹介しましょう。
「和歌(やまとうた)は、人の心を種(たね)として、万(よろず)の言の葉とぞなれりける。世の中にある人、事・業(こと・わざ)しげきものなれば、心に思う事を、見るもの聞くものにつけて、言ひだせるなり。花に鳴く鶯(うぐいす)、水に住むかはずの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。
力をもいれずして天地(あめつち)を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女のなかをもやわらげ、猛き武士(もののふ)の心をなぐさむるは、歌なり」と。
その心をともにすれば、まさに香道の心となります。
沈香
香木の心は!
さあ、花見に出かけましょう!
香りとともに!
よし野山 こずゑの花を 見し日より
心は身にも そはずなりにき
と、西行の心境にもにて
では、“花に狂う”西行の心を主題にして聞香を!
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